那覇地方裁判所 平成5年(行ウ)9号 判決 1996年1月31日
沖縄県沖縄市胡屋五丁目一番一一号
原告
松川忠吉
右訴訟代理人弁護士
新垣勉
同
松永和宏
沖縄県沖縄市宇美里一二三五番地
被告
沖縄税務署長 呉屋昌治
右指定代理人
須田啓之
同
松田昌
同
阿部幸夫
同
宮里勝也
同
安里国基
同
呉屋育子
同
宮城安
同
大城守男
同
桃原仁
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告が、原告に対し、平成二年七月一〇日付けでした以下の各処分を、いずれも取り消す。
1 原告の昭和六二年分の所得税の更正処分のうち、事業所得金額三五五万六一六〇円、納付すべき税額五万二二〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分
2 原告の昭和六三年分の所得税の更正処分のうち、事業所得金額三五八万六五六〇円、納付すべき税額四万七五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、審査裁決により一部取り消された後のもの)
3 原告の平成元年分の所得税の更正処分のうち、事業所得金額四一五万九七一〇円、納付すべき税額二万九七〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分
第二事案の概要
本件は、沖縄そば店を営む原告が、昭和六二年分から平成元年分までの三年間の事業所得について、被告が、推計課税を用いて各年分の申告事業所得金額の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことに対し、その申告事業所得金額を超える部分及び右過少申告加算税の賦課決定処分の各取消しを求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 原告は、肩書住所地において「味好」の屋号で沖縄そば店を経営する者である。
2 原告は、昭和六二年分、昭和六三年分及び平成元年分(各年分は、その年の一月一日から一二月末日までの一年間分をいう。以下、これらを併せて「本件各係争年分」ということがある。)の所得税について、別表一「確定申告」欄記載のとおり、確定申告書を提出した。
3 被告は、原告に対し、平成二年七月九日付けで、昭和六二年分以後の青色申告の承認を取り消し、更に、平成二年七月一〇日付けで、別表一「更正処分」欄記載のとおり、原告の各係争年分の事業所得金額及びこれに対する税額の更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をした。
4 原告は、右各更正処分及び過少申告加算税賦課決定に対し、平成二年九月六日に異議を申し立てたところ(以下「本件異議申立て」という。)、被告は、平成三年一月一六日付けで、右異議申立てをいずれも棄却する旨の決定をし、そのころ原告に通知した。
5 そこで、原告は、平成三年二月一五日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが(以下「本件審査請求」という。)、国税不服審判所長は、平成五年一月二二日付けで、別表一「裁決」欄記載のとおり、昭和六二年分及び平成元年分に対する審査請求を棄却し、昭和六三年分のそれについて一部取り消す旨の裁決をし、平成五年一月二六日ころ原告に通知した(以下、昭和六三年分について一部取り消された部分を除き、本件各係争年分についてされた各更正処分を併せて「本件各更正処分」といい、右と各過少申告加算税賦課決定処分を併せて「本件各更正処分等」ということがある。)。
二 争点
(原告の主張)
1 推計課税の合理性
(一) めんの仕入量の推計について
(1) 昭和六二年分
<1> ざるそば及びうどんの仕入量について
原告が、ざるそば、うどんの仕入れ及び販売を始めたのは、昭和六三年四月からであり、同年三月までは、ざるそば、うどんを商品として取り扱っていなかった。したがって、昭和六二年分については、ざるそば及びうどんは仕入量から控除すべきである。
<2> 沖縄そばの仕入量について
沖縄そばについては、昭和六二年分の仕入量を示す証拠は全く存在しない。
しかるに、被告は、昭和六二年分の沖縄そばの仕入量を、平成元年分の一一か月分の仕入量と、昭和六三年分の三か月分の仕入量の平均を用いて算出しているが、右算出方法には何ら客観的、合理的な根拠はない。
<3> 昭和六二年分の仕入量の合理的推計
昭和六二年分は、仕入量に関する基礎資料が不存在であり、仕入量を基準として売上額を推計することはできず、めんの仕入量による推計は不能である。
(2) 昭和六三年分
<1> ざるそば及びうどんの仕入量について
原告が、ざるそば及びうどんの仕入れ並びに販売を始めたのは、昭和六三年四月からであるので、昭和六三年一月から三月までの間については、ざるそば及びうどんは仕入量から控除すべきであり、被告が、同期間内のざるそば及びうどんの仕入量を推計して算出しているのは誤りである。
<2> 沖縄そばの仕入量について
沖縄そばについては、昭和六三年分についての証拠は、わずか三か月分(昭和六三年四月、五月及び一二月)しか存在しない。
しかるに、被告は、昭和六三年分の仕入量を推計する上で、平成元年四月、五月及び一二月を除く九か月分の沖縄そばの仕入量を使用しているが、平成元年分の仕入量と、昭和六三年分の仕入量は必ずしも同一ではなく、右のような被告の算出方法には何ら客観的、合理的根拠が認められない。
<3> 仕入量の合理的推計
昭和六三年分については、仕入量が判明したのが三か月分のみであり、基礎資料が少ないため、これを基準として売上額の推計は不能である。
仮に、昭和六三年分の基礎資料を基にして、同年における仕入量を推計すれば、判明している昭和六三年分の三か月分の平均仕入量と平成元年分の月平均仕入量を対比すれば、その比率は、沖縄そば〇・九三六、ざるそば(小)〇・八七九、同(大)一・四四二、うどん〇・九六三となり、右比率を平成元年分の仕入量に乗じた額が昭和六三年分の仕入量と推認するのが相当である。
ちなみに右方法により計算すれば、昭和六三年分の仕入量は、以下のとおりである(ただし、ざるそば及びうどんは、同年四月からの計算となる。)。
沖縄そばの仕入量 二万四七七七キログラム
ざるそばの仕入量 小 三五〇一袋(二〇〇グラム入り)
大 八九九袋(三六〇グラム入り)
うどんの仕入量 一一七八袋(二〇〇グラム入り)
(3) 平成元年分
平成元年分の仕入量については、同年五月の一か月分以外の一一か月分が判明しており、
沖縄そばの仕入量 二万六四七二キログラム
ざるそばの仕入量 (小)三九八四袋(二〇〇グラム入り)
(大) 六二四袋(三六〇グラム入り)
うどんの仕入量 一六三二袋(二〇〇グラム入り)
と推認するのが相当である。
(二) 販売食数と販売単価
(1) 被告の主張する販売食数と販売単価の不合理性(本件各係争年分を通じて)
<1> ざるそばの販売食数と販売単価
被告は、(一)で述べたざるそばの仕入量を基礎数値とした上で、二〇〇グラム入り袋の仕入数をそのままざるそば(小)の販売食数とし、三六〇グラム入り袋の仕入数をそのままざるそば(大)の販売食数としている。
しかし、原告は、実際は、ざるそば(小)については、一食当たり二三〇から二五〇グラムのめんを使用し、ざるそば(大)については、一食当たり四五〇から四六〇グラムのめんを使用していたのであり、二〇〇グラム入り袋めんも、ざるそば(大)に用いることもあったのであるから、被告は前提事実を誤認し、その結果過大な販売食数を認定している。
また、被告は、ざるそばの販売単価について、ざるそば(小)の単価を四二〇円、ざるそば(大)を五七〇円としているが、ざるそばの販売を始めた昭和六三年四月から平成元年一二月までの間のざるそばの販売単価は、ざるそば(小)が四〇〇円、ざるそば(大)が五五〇円であり、被告は、販売単価を実際より高額に設定してる。
<2> うどんの販売食数と販売単価
被告は、うどんの販売食数をそのまま販売食数としている。
しかし、昭和六三年四月から平成元年一二月までの間に仕入れられたうどんの袋は、大半が二〇〇グラム入りのものであるところ、原告は、うどん一食当たり二五〇グラムを使用しているのであるから、実際は仕入袋数より販売食数は少なくなるのであって、被告は過大な販売食数を認定している。
また、被告は、うどんの販売単価について、四〇〇円であるとの前提に立っているが、うどんの販売を始めた昭和六三年四月から平成元年一二月までの間のうどんの販売単価は三八〇円であり、被告は、販売単価を実際より高額に設定している。
<3> 沖縄そばの販売食数と販売単価
被告は、沖縄そばの一食のめんの使用量を三〇〇グラムであると想定し、めんの仕入量を三〇〇グラムで除して販売食数を算出し、沖縄そばの販売単価については、ソーキそば、普通そば、中味そば、肉そば、牛肉そば及び味好そばの六品目の、訴訟時における平均値段(五八三円)を算出し、そこから約八〇円を引き、五〇〇円を本件各係争年における平均値段として、右販売食数に乗じて売上金額を算出している。
しかし、原告においては、仕入れた沖縄そばのめんは、前記の六品目の他に、お子様そば(めんの使用量二〇〇グラム)、大盛そば(めんの使用量五〇〇グラム)、やきそば(めんの使用量三〇〇グラム)及び未調理の袋詰(めんの使用量三キログラム)として販売しているのであり、これらの販売商品を基礎資料から除外する合理的な理由はなく、機械的に平均めん使用量、販売単価を算出するのであれば、当然これらの商品も、基礎資料として組み入れなければならない。
そして、本件各係争年度における沖縄そばのめんを使用した商品の販売単価は、ソーキそばが五〇〇円、普通そばが四〇〇円、中味そばが四五〇円、牛肉そばが五五〇円、味好そばが五〇〇円、お子様そばが二五〇円、大盛そばが六〇〇円、やきそばが四五〇円であり、沖縄そばを使用する九品目の平均値段は四七二円、被告の主張する六品目に限っても四八三円となり、被告の主張単価を下回るものである。
以上のとおり、被告の主張する沖縄そばの販売食数と販売単価は事実に反したもので、基礎資料の選択が不当にされて算出されたものである。
(2) 販売食数と販売単価の合理的推計
<1> 沖縄そばの販売食数
前述のとおり、原告における沖縄そばを使用した商品九品目のめんの使用量の平均は、一食当たり三一一グラムとなり、右三一一グラムで原告の前記主張の各課税年の沖縄そばの仕入量を除すると、各年の推計販売食数は、
昭和六三年分 七万九六六八食数
平成元年分 八万五一一八食数
となる。
<2> ざるそばの販売食数
ざるそばは、一食当たり(小)が二三〇から二五〇グラム、(大)が四五〇から四六〇グラム使用していたと認められるから、両者を平均して、一食当たり少なくとも三四〇グラム使用していたとするのが相当である。
したがって、右一食当たりのざるそばの使用量三四〇グラムで原告主張の前記各課税年の推計仕入量を除すると、各年の推計販売食数は、
昭和六三年分 三〇一一食
平成元年分 三〇〇四食
となる。
<3> うどんの食数
うどんは、一食当たり二五〇グラムが使用されていたと認められるから、右一食当たりのうどんの使用量二五〇グラムで原告主張の前記各課税年の推計仕入量を除すると、各年の推計販売食数は、
昭和六三年分 一三〇五食
平成元年分 九四二食
<4> 沖縄そばの販売単価
昭和六三年分及び平成元年分における沖縄そばの販売単価は、普通そば四〇〇円、ソーキそば五〇〇円、中味そば四五〇円、やきそば四五〇円、お子様そば二五〇円、肉そば五〇〇円、味好そば五〇〇円、大盛そば六五〇円、牛肉そば五五〇円であり、右各品目の平均単価は、四七二円である。
<5> ざるそばの販売単価
昭和六三年分及び平成元年分におけるざるそば(小)の販売単価は四〇〇円、ざるそば(大)の販売単価は五五〇円であるから、ざるそば商品の平均単価は四七五円である。
<6> うどんの販売単価
昭和六三年分及び平成元年分におけるうどんの販売単価は三八〇円である。
<7> 以上から、昭和六三年分及び平成元年分の売上金額の推計は、以下のとおりである。
(a) 昭和六三年分 合計三九三九万一四八一円
沖縄そば 三七六〇万三二九六円
ざるそば 一四三万〇二二五円
うどん 三五万七九六〇円
(b) 平成元年分 合計四二〇九万八四九六円
沖縄そば 四〇一七万五六九六円
ざるそば 一四二万六九〇〇円
うどん 四九万五九〇〇円
(二) 売上金額から所得を推計する課税の不合理性
(1) 類似同業者の資料の正確性
被告が本件処分において用いた一業者(別表三同業者A)の売上金額に対する最終所得金額の割合(以下「最終所得率」という。)は、原処分時における同じ業者と推定される業者の最終所得率と異なっており、調査資料の信用性に疑問がある。
(2) 同業者の類似性
被告は、昭和六二年分については同業者二件、昭和六三年分及平成元年分については同業者三件による同業者比率を算出しているが、わずか二件ないし三件の同業者の例をもって推計の資料とすることは、同業者の個別性を平均化するに足りず、右二件ないし三件の同業者と原告の間で、収入金額、仕入金額、最終所得率、設備内容(座席数、座席の種類)、店舗面積、従業員数、販売品目及び販売価格、営業年数、立地条件(同業者の競合)等において厳格な類似性があることが肯認されない限り、推計の合理性に欠けるといわなければならない。
そして、右類似性を有するとするためには、少なくとも推計された原告の売上額に対し、類似同業者の売上額が、いわゆる倍半基準の範囲内になければならないところ、原告の前記推計方法によれば、類似同業者の中に、原告の倍を超える業者が混入している。そして、原告と類似同業者を比較すれば、最終所得率が著しく異なり、営業状態が全く相違していることが推認されるのであるから、同業者は類似性を欠いており、このような類似同業者を用いてされた推計課税方式は合理性を欠くものである。
(3) 同業者率の利用方法の不当性
本件各処分において、被告は、売上金額に、類似同業者の最終所得率の平均を乗じて最終所得金額を推計する方式(以下「最終所得推計方式」という。)を採用せず、類似同業者の売上金額に対する総利益の割合の平均(以下「平均売上総利益率」という。)及び類似同業者の売上金額に対する一般経費の割合の平均を使用して原告の売上総利益及び一般経費を算出し、特別経費については、実額でこれを認定して、最終所得金額を算出する方式(以下「特別経費実額控除方式」という。)を採用している。その結果、類似同業者の最終所得率の平均が、昭和六二年分が一〇・五八パーセント、昭和六三年分が五・五六パーセント、平成元年分が四・四六パーセントであるのに対し、被告の推計により算出された原告の所得額に基づいて計算した最終所得率は、昭和六二年分が三〇・三四パーセント、昭和六三年分が二九・八八パーセント、平成元年分が三二・二〇パーセントとなっており、本件推計方法の不当性は明らかである。
同業者率は、当該納税者と業種が同一であるばかりでなく、業態、規模、立地条件において個別性の認められる同業者を抽出して、その経費率を算出するものであるから、経費についての特殊事情は捨象されるのであり、特別経費について同業者率を用いること、すなわち売上金額に対する最終所得率を用いて所得を算出することは何ら不合理なことではなく、むしろ一般論としていえば、最終所得推計方式の方が、より合理性を有するのであるから、被告において、原告の特別経費について、補足もれがない実額を立証し得ない限り、最終所得推計方式により所得額を推計すべきである。
(4) 特別経費の認定
<1> 人件費
被告は、本件各係争年分について、原告が納税申告書に記載した金額をそのまま実額として認定しているところ、原告が納税申告書に記載した金額以外にも人件費が発生しており、被告が実額の補足もれがあることは明らかである。
<2> 減価償却費
争う。
<3> 原告の主張する特別経費の認定方法
前記のとおり、被告が主張する特別経費のうちの人件費について補足もれがある以上、最終所得推計方式によるべきであり、少なくとも人件費及び利子割引料等については、類似同業者の比率を使用すべきである。
2 手続的瑕疵
(一) 異議決定書に附記された理由の差し替え
被告は、本件各更正処分に先立って、青色申告の取消処分を行っており、更正処分時には処分理由が明記されてないが、本件異議申立てに対する決定には、国税通則法八四条四項及び五項に基づき、処分時の更正理由が附記された処分となっている。
そして、異議決定書に附記された理由によれば、被告の類似同業者の本件各係争年分の売上金額に、平成元年分における原告の類似同業者に対するプロパンガスの使用割合を乗じて原告の売上金額を算出し、最終所得推計方式を用いて所得額を推計している。
ところが、被告は、本件訴訟において、めんの仕入量から売上金額を推計した上で、特別経費実額控除方式を用いて所得金額を推計している。
租税法規が理由附記を要求しているのは、手続保障の見地から、課税庁の判断の慎重、合理性を担保し、その恣意を抑制するとともに、不服申立ての便宜を与えることにある。そして、仮に、異議決定書に附記されていない理由を自由に主張できるとすれば、更正が安易に流れ、処分庁の判断の慎重さは減殺されるおそれがあるから、更正を維持するために異議決定書に附記されていない理由を主張することは違法であり、許されない。
(二) 審査裁決の際に主張された理由の差し替え
また、法が不服申立て前置主義を採用したのは、異議申立て、審査請求、訴訟という順序で順次争点を整理してその争点を中心に審理を進めることにより、納税者の権利救済手続を保障することにあり、裁決に理由を附記すべきものとしているのは、審査庁の判断の慎重、公正を期し、その恣意を抑制するとともに、裁決の理由を明示することによって、審査請求人に原処分に対する取消訴訟の判断資料を提供する趣旨に出たものである。しかるに、審査裁決時の争点以外の理由を随時主張、立証することが許されるならば、争点が拡大し、納税者が自己の権利を手続的に防御することが困難になり、権利救済を図ることができず、不服申立て前置主義、審査裁決における理由附記の趣旨は没却されてしまうこととなるので、取消訴訟において、不服申立段階と異なる処分理由の主張は違法であり、認められない。
そして、裁決書では、本件各係争年分のうち、昭和六二年分及び昭和六三年分について、原告の両年分の水道使用量を実額で把握し、さらに、プロパンガスの使用割合により算出した平成元年分の売上金額を基に原告の平成元年分の水道使用量一立方メートル当たりの売上金額を求め、これを原告の昭和六二年分及び昭和六三年分の水道使用料に乗ずることにより推計して処分を行っているのに対し、被告は、本件訴訟において、前記のとおりの推計方法を主張しているのであるから、右は処分理由の差替えに当たり、認められない。
(三) 仮に、右処分理由の差し替え自体が絶対に許されないものではないとしても、原処分時及び裁決時における不合理な推計を糊塗するために、訴訟において恣意的に理由を差し替えることは許されないというべきである。
被告は、原処分時及び裁決時において用いたプロパンガスの使用量による推計あるいは水道使用量による推計を基礎資料として、同業者と対比して、売上金額を算出していたのに対し、右推計方法が明らかに不合理であったため、訴訟段階において、そば等の仕入量を用いて売上金額を推計する方法に変更したため、原処分時及び裁決時よりも売上金額が過少となり、原処分時及び裁決時に用いていた最終所得率による推計方法では更正処分を維持できなくなったため、本件訴訟において特別経費実額控除方式を主張したものである。右のような不当、恣意的な理由により、特別経費実額控除方式を採用することは許されず、原処分時及び裁決時に用いていた最終所得推計方式においても用いるべきである。
3 以上から、原告の主張する本件各係争年分についての推計所得金額は別表八のとおりであり(昭和六二年分については推計不能)、本件各処分は取消を免れない。
(被告の主張)
1 推計課税の必要性
被告は、原告が提出した本件各係争年分の所得税の青色確定申告書に、同申告書に添付されている青色申告決算書の月別仕入金額の記載がなく、また、貸借対照表も記載がないなど、不明、不備な点があること、更に、原告と同程度の規模の同業者と比較して申告額が過少である疑いがあったことから、被告所部係官に調査を命じたところ、原告において、本件各係争年分について、帳簿として、月計のみ記帳された売上帳しかくなく、原始帳票類が保存されていないなど、青色申告者として法が要求する記帳義務、保存義務を果たしていないなど、青色申告者として法が要求する記帳義務、保存義務を果たしていないことに加え、調査に対して非協力的な態度をとったことから、被告は、原告の本件各係争年分の事業所得金額を実額で把握することができなかった。
以上から、原告の本件各係争年分における事業所得金額について、推計課税の必要性があることは明らかである。
2 推計課税の合理性
被告は、原告のめんの仕入量を基に、次のとおり本件各係争年分に係る売上金額を認定し、右売上金額に、類似同業者の売上総利益率及び一般経費率を乗じて原告の本件各係争年分に係る売上総利益及び一般経費を推計により算出し、特別経費を実額で認定し、右算出に係る売上総利益から一般経費及び特別経費を控除して、本件各係争年分の売上金額を算出した。
(一) めんの仕入量
めんの仕入量は、原告の唯一の仕入先であるオキコ株式会社(以下「オキコ」という。)から、被告が収集しためんの仕入れに関する資料に基づき、本件各係争年分のめんの仕入量を算出しており、売上金額及びその計算過程は、別表二<1>「売上金額」欄記載のとおりである。
すなわち、<1>平成元年分については、オキコから一一か月分の仕入量を収集したので、その仕入量を一一で除して算出した一か月平均の量を一二倍し、<2>昭和六三年分の仕入量については、資料を収集できた三か月(四月、五月、一二月)分の仕入量に、その他の月に対応する平成元年の月(平成元年四月、五月、一二月を除く。)の仕入量を加え算出した一か月平均の量を一二倍し、<3>昭和六二年分の仕入量については、資料が全く収集できなかったため、収集できた右昭和六三年分の三か月と平成元年の一一か月分の仕入量を合計し、一四で除して算出した一か月平均の量を一二倍して求めた。
右<2>のような方法を採ったのは、収集できた資料が少なかったところ、昭和六三年と平成元年では、仕入量に大差がなく、時期的に近接しており、原告方店舗の規模が変化していないことから、客数が増加しているとは考えられなかったので、資料を収集できなかった月については、これに対応する月の仕入量を使用したものであり、右<3>の方法は、昭和六二年と、昭和六三年及び平成元年とは時期的に近接しており、収集できた資料を最大限に利用することにより、その誤差をできるだけ少なくしようとしたものである。
(二) 販売食数
(1) 沖縄そば
沖縄そばのめんを使用する九品目のうち、ソーキそば、普通そば、中味そば、肉そば、味好そばの六品目について、それぞれ一人前を約三〇〇グラムと推定し、前記算出に係る沖縄そばめんの年間仕入量を一人前三〇〇グラムで除して年間販売食数を算出した。
(2) ざるそば
オキコが、三六〇グラム入りの袋と二〇〇グラムいりの袋をそれぞれ一人前用として販売していたことから、原告は、仕入れた三六〇グラム入りの袋をざるそば(大)に、二〇〇グラムいりの袋をざるそば(小)にそれぞれ対応させていると推認できるので、原告が仕入れたざるそば一袋を一人前として、前記算出に係る年間仕入量に基づいて、年間販売食数を算出した。
(3) うどん
オキコが一袋を一人前用として販売していたことから、仕入れた一袋を一人前として、前記算出に係る年間仕入量に基づいて、年間販売食数を算出した。
(三) 売上単価及び売上金額
本件各係争年分の全部の実額が把握できなかったため、平成五年八月ころのソーキそばの売上単価六〇〇円と原処分調査担当者が確認していた平成元年末ころから原処分調査時までのソーキそばの売上単価五二〇円との差額八〇円を、沖縄そばについては、前記六品目の推計時の平均売上単価から、ざるそば及びうどんについては、推計時の売上単価からそれぞれ控除し、本件各係争年分の売上単価を、沖縄そば五〇〇円、ざるそば(小)四二〇円、ざるそば(大)五七〇円、うどん四〇〇円とした。
そして、推計時の右売上単価に前記算出に係る販売食数を乗じて本件各係争年分に係る売上金額を算出した。
なお、被告が推計した右売上金額には、めん類以外のいわゆるご飯もの、飲み物類及びたばこの売上は含まれておらず、これらの売上金額の捕捉もれがあることは明らかであるから、実際の売上金額は、右金額よりも多くなることが十分に予想される。
(四) 売上総利益金額及び一般経費
売上総利益及び一般経費は、前記算出に係る売上金額に、後述の類似同業者の売上総利益率、一般経費率をそれぞれ乗じて算出したものであり、その金額は、別表二<3>「売上総利益率」欄、同<5>「一般経費の額」欄各記載のとおりであり、その計算過程は、次のとおりである。
(売上総利益の算式)
昭和六二年分 四六一七万八九六〇円×〇・五五〇六=二五四二万六一三五円
昭和六三年分 四六三四万七八四〇円×〇・五六八九=二六三六万七二八六円
平成元年分 四六八〇万一七六〇円×〇・五九五三=二七八六万一〇八七円
(一般経費の算式)
昭和六二年分 四六一七万八九六〇円×〇・一四八三=六八四万八三三九円
昭和六三年分 四六三四万七八四〇円×〇・一五九五=七三九万二四八〇円
平成元年分 四六八〇万一七六〇円×〇・一八一五=八四九万四五一九円
なお、類似同業者の選定方法は、以下のとおりである。
沖縄国税事務所長は、原告が確定申告書を提出している沖縄税務署長に加えて、これに隣接する北那覇税務署長、更に那覇税務署長に対し、青色申告書により所得税(法人税を含む。)の確定申告書を提出している者で、かつ、本件各係争年分を通じて次の<1>ないし<7>のすべての条件に該当する者を抽出するよう指示する旨の通達を発した。
<1> 沖縄そばを専門に提供する食堂を営んでいること
<2> 他の業種目を兼業していないこと
<3> 年間を通じて事業を継続して営んでいること
<4> 事業所が沖縄税務署、北那覇税務署又は那覇税務署管内にあって、一店舗で営業していること
<5> 青色申告書を提出していること
<6> 売上金額が二三〇〇万円以上九三七〇万円未満であること
<7> 対象年分の所得税(法人税を含む。)については、不服申立て又は訴訟が継続中でないこと
そして、右基準により選定された同業者は、別表三記載のとおり、昭和六二年分が二件、昭和六三年分及び平成元年分がそれぞれ三件であり、右類似同業者についての平均値である売上総利益率及び一般経費率は、別表二<2>「売上総利益率」欄、同<4>「一般経費率」欄各記載のとおりである。右売上総利益率及び一般経費率については、いずれも正確性と普遍性が担保されており、被告がこれを用いて原告の本件各係争年分の事業所得金額を推計したことについては合理性がある。
(五) 特別経費
原告の本件各係争年分の特別経費の額は、給与賃金と減価償却費を実額で認定した金額は、別表四記載のとおりであり、その合計額は、別表二<6>「特別経費の額」欄記載のとおりである。
(1) 給与賃金について
給与賃金については、原告が本件各係争年分の確定申告の際、被告に提出した青色申告決算書の給与賃金欄記載の金額から、以下のとおり実額を認定した。
昭和六二年分 四二六万円
昭和六三年分 四八二万円
平成元年分 三九九万円
(2) 減価償却費について
減価償却費は、原告が、以前被告に提出した減価償却資産の取得価額に関する資料に基づいて、次のとおり実額を算出した。
本件各係争年分について 各四万三二三五円
(3) 特別経費について、同業者率を使用しない理由
特別経費については、一律に類似同業者の特別経費率を使用して所得を算出することは合理的でないので、一般経費率の算定方法と区分し、原告が確定申告の際に提出した青色申告決算書記載の額を参考に算定したものである。
もともと特別経費は、同じ業種であっても経営形態によってその内容及び支出額が異なるものであり、また、売上金額に対する比率においても希薄な関係にあるといえるのであるから、結果として原告の最終所得率が高くなるからといって、そのことが直ちに推計が不当であるとか、推計に合理性がないという結論に結びつくものではない。
原告は、類似同業者にあるような地代家賃や利子割引料はなく、特別経費といえるのは、給与賃金及び減価償却費しかないのであり、しかも、原告と妻節子は、ともに事業に従事しているのであるから、その分、給与賃金に支払いが小額となることは予想されることであり、その結果として最終所得率が高くなったものである。
(六) 本件各処分の適法性
被告が本件訴訟において主張する原告の本件各係争年分の事業所得金額は、別表二<7>「事業所得」欄記載のとおり、
(昭和六二年分) 一四二七万四五六一円
(昭和六三年分) 一四一一万一五七一円
(平成元年分) 一五三三万三三三三円
であり、右各金額は、本件各更正処分等において認定された原告の事業所得金額である、
(昭和六二年分) 八五七万四六三二円
(昭和六三年分) 八八五万四七六八円
(平成元年分) 七七一万六七六二円
を超えることは明らかである。
したがって、前記推計による原告の本件各係争年分の事業所得金額の範囲内でした本件各更正処分は適法であり、また、原告は、本件各係争年分の所得税の確定申告を過少に行っていたのであるから、本件各過少申告加算税の賦課決定処分も同様に、適法である。
第三争点に対する判断
一 推計課税の必要性について
前記争いのない事実等、甲一号証、乙一一ないし一三号証、証人松田昌及び同松川節子の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、肩書住所地において、沖縄そば店を経営するいわゆる青色申告者(本件各係争年当時)であり、本件各係争年分の所得税について、別表一「確定申告」欄記載のとおり、確定申告書を提出したが、これに対し、被告は、原告が提出した右確定申告書には、同申告書に添付されている青色申告決算書の月別仕入金額の記載がなく、また、貸借対照表も記載がないなど不明又は不備な点があり、更に、原告と同程度の規模の同業者と比較して申告額が過少ではないかと疑われたため、被告所部係官に対し、本件各係争年分の所得金額について調査を命じたこと、被告所部係官である大蔵事務官新垣仙一(以下「新垣事務官」という。)及び同仲地祐三は、平成二年五月一五日、所得税調査のため原告の自宅を訪れ、原告及び節子と面会し、所得税調査の協力を要請したところ、本件各係争年分の事業所得金額の計算に必要な領収書、請求書の類はなく、帳簿も売上帳しかなく、しかも、右売上帳には月計のみ記載されており、日々の売上の記載がないばかりか、原告が提出した青色申告決算書の売上金額とも一致しなかったが、そのことについて説明もなく、協力の態度も見られなかったこと、そこで、被告は、同年七月九日付けで、所得税法一四八条一項に規定する帳簿の保存がされていないことから、同法一五〇条一項一号に該当するとして、原告に対する昭和六二年分以降の青色申告の承認を取り消したが、右取り消しに対する原告の不服申立てはなかったこと、本件審査請求の際に、国税不服審判所が、原告に対し、本件各係争年分の事業所得金額の計算に関する証拠資料の提出を求めたところ、当時の資料は保存していない旨述べたことが認められる。
右認定事実によれば、原告は、本件各係争年分に関する売上の正確な記帳及び原始帳票類の保存等をしておらず、また、原告は、調査に対して非協力的であったことから、被告は、原告の本件各係争年分の所得金額を実額によって把握することができなかったといわなければならず、右所得金額を推計によって行う必要性が認められる。
二 推計課税の合理性について
1 推計課税(所得税法一五六条)は、課税標準を実額で把握することが困難な場合、税負担公平の観点から、実額課税の代替的手段として、合理的な推計の方法で課税標準を算定することを課税庁に許容した実体法上の制度と解するのが相当である。
そうすると、推計課税は、実体法上、実額課税とは別に課税庁に所得の算定を許す行為規範を定めたものであって、真実の所得を事実上の推定によって認定するものではないから、その推計の結果は、真実の所得と厳密な意味で合致している必要はなく、実額課税に代わる方式にふさわしいといい得る程度の合理性があれば足りるというべきである。
本件において被告が用いた推計方法は、被告が把握した原告のめんの仕入量を基礎にして求めた年間食数に売上単価を乗じて売上金額を算出し、その売上金額に類似同業者の総利益率を乗じて売上総利益を求め、その売上総利益から右売上金額に右類似同業者の一般経費率を乗じて算出した一般経費と実額の特別経費をそれぞれ控除して、原告の本件各係争年分の事業所得金額を算出する方法である。
そして、右事業所得金額は、本件各更正処分において認定された原告の事業所得金額を超えることは明らかであるから、被告主張に係る推計方法に前記合理性が認められれば、本件各更正処分において、事業所得金額、ひいては所得税額を過大に認定した違法はないことになり、また、同様に、本件各係争年分における各過少申告加算税賦課決定も適法であるということができる。
そこで、以下、被告主張の推計方法に合理性があるか否かを検討する。
2(一) めんの仕入量の推計について
(1) めんの仕入量についての被告の調査
乙四号証、五号証の一ないし三、六号証、七号証、証人松田昌の証言及び弁論の全趣旨によれば、被告が行っためんの仕入量の調査内容は、以下のとおりである。
被告の原処分時の調査担当者新垣事務官は、原告宅に調査に訪れた際に、めんの仕入先がオキコ一社であることを聴取したので、オキコを訪ね、同社の取引資料の保管場所から、現金売上に係る領収書の控えを取り出し、平成元年八月、九月の日別の沖縄そば、ざるそば及びうどんの仕入量を把握した(乙六号証)。
そして、本件訴訟の調査担当者松田昌(以下「松田事務官」という。)は、本件各係争年分の他の月の仕入量を把握すべく、平成五年七月末から八月上旬ころ、二日間オキコを訪ね、同社休養室、コンテナ、工場二階の物置の三か所を調べたところ、昭和六十二年分については収集できなかったものの、昭和六十三年分については三か月分、平成元年分については九か月分(八月、九月を除く)の領収書控えを探し出した。そして、収集した領収書の枚数が数百枚に及ぶことから、本件訴訟の証拠とするため、平成五年八月二三日付けで、オキコに右資料内容の確認を依頼し、<1>沖縄そば三キログラム入りの販売数量、<2>沖縄そば一キログラム入りの販売数量、<3>うどん二〇〇グラム入りの販売数量、<4>ざるそば二〇〇グラム入りの販売数量、<5>ざるそば三六〇グラム入りの販売数量について、昭和六三年分は、四月、五月、一二月の三か月分、平成元年分は、五月、八月、九月を除く九か月分について同社から書面で回答を得た(乙四号証、五号証の一ないし三)。
そこで被告は、先に判明していた二か月分と、右オキコから回答を受けた一一か月分の仕入量から原告の本件各係争年分の仕入量を推計することとし、平成元年分については、資料を収集できたオキコからの一一か月分の仕入量を一一で除して算出した一か月分の量を一二倍し、昭和六三年分の仕入量については、資料を収集できた同年四月、五月、一二月分の仕入量に、その他の月に対応する平成元年の月(平成元年四月、五月、一二月を除く。)の仕入量を加え算出した一か月平均の量を一二倍し、昭和六二年分の仕入量については、資料が収集できなかったため、右昭和六三年の三か月分と平成元年の一一か月分の仕入量を合計し、それを一四で除して算出した一か月平均の量を一二倍して本件各係争年分に係るめんの仕入量を推計した。
以上の推計方法は、被告の入手し得る推計の基礎事実に照らし、合理性が認められるといわなければならない。
(2) ところで、原告は、ざるそば及びうどんは、昭和六三年四月に仕入れを始めたもので、昭和六二年分及び昭和六三年一月から三月までの間のざるそば及びうどんの仕入量を推計して算出しているのは誤りであると主張する。そして、証人節子は、オキコと取引する前は普天間そばと取引していたこと、普天間そばと取引していたときは、ざるそば及びうどんを仕入れておらず、オキコとの取引の開始後に、ざるそば及びうどんを仕入れていること、オキコとの取引は昭和六一年末ころ開始し、ざるそば及びうどんの仕入れは昭和六三年四月ころから始まったことをオキコの職員から聞いた旨証言する。
また、味好の店内の壁にはメニューを表示したボードがかけられているが、右ボードには、ざるそば及びうどんは表示されておらず、その左側の壁にざるそば及びきつねうどんの写真と値段が貼ってあること(甲二、三号証)、原告が以前使用していた注文書の中には、ざるそば及びうどんが載っていないものがあること(乙五号証)が認められ、味好において、ざるそば及びうどんは、当初は取り扱っておらず、時期は不明であるが、途中からこれらの商品の販売を始めたことがうかがえる。
しかしながら、原告が、オキコからざるそば及びうどんの仕入れを開始した時期が昭和六三年四月であるという証拠は、オキコの職員から聞いたという節子の証言以外にはなく、右証言は、これが判明した経緯や根拠等が不明であって、客観的証拠が明らかでなく、それ自体証拠価値が乏しいものである。また、節子は、原告が当初めん類を仕入れていた普天間そばは日本そばやうどんを取り扱っていなかったところ、オキコの職員新里康男から、オキコはざるそばやうどんも取り扱っているからと勧誘され、仕入先をそれまでの普天間そばからオキコに変更し、日本そばとうどんは、オキコに変更した後に販売を開始したと証言している。そうであれば、オキコとの取引開始時期と日本そば及びうどんの仕入れの開始時期が異なると考えることは不自然であり、この点からも節子が前記職員の発言内容とするところによって右仕入れの開始時期を認定することはできない。
ところで、昭和六二年一月から昭和六三年三月までのオキコからのざるそば及びうどんについての仕入量は判明していない(乙五号証の一、二)ものの、右は、単にオキコから同期間について資料が収集できなかったためであり、そのことから直ちに同時期において、原告がざるそば及びうどんを仕入れていないということはできない。かえって、昭和六二年分及び昭和六三年分の調査に対するオキコの意見によれば、「販売数量は平成元年と大きな変化はない。」との記載があり(乙五号証の一、二)、ざるそば及びうどんを仕入れていないことを示す記載はなく、同期間においても、平成元年と同様にざるそば及びうどんを仕入れていたと推認するのが合理的である。
したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。
(3) また、原告は、昭和六三年分については基礎資料が三か月分しか存在せず、昭和六二年分については基礎資料が全く存在しないのにもかかわらず、昭和六三年分については平成元年の仕入量を、昭和六二年分については昭和六三年及び平成元年の仕入量を用いて推計している点が合理性を欠くと主張する。
ところで、税務署長が採用した推計方法が合理的であるためには、税務署長が入手し得る推計の基礎事実に照らし、その推計方法が一応合理的な方法であり、かつ、当該納税者の所得につき近似値を求め得ると認められる程度のものであれば足りるといわなければならない。
本件においては、被告の調査により、昭和六三年分については四月、五月及び一二月の三か月分について、平成元年分については五月を除く一一か月分についての仕入量は把握できたが、本件係争年分のその他の月についての仕入量は把握できなかったことが認められる。
そこで、被告において、昭和六二年分については右把握した一四か月分の仕入量を用い、昭和六三年分については把握した同年の三か月分に平成元年の九か月分の仕入量を用い、平成元年については把握した同年の一一か月分を用いて推計する方法を採用したのであるが、オキコからの調査照会回答書によれば、昭和六二年分及び昭和六三年分の販売数量について、いずれも平成元年と大きな変化はない旨の報告があること(乙五号証の一、二)、平成元年分のうち、五月分、八月分、九月分の販売数量について、いずれも他の月と大きな変化がない旨の報告があること(乙五号証の三)、他方、本件各係争年分を通じて、原告の営業条件に変化があったことは証拠上うかがわれないことからして、右方法により推計することには十分合理性がある。
なお、原告は、昭和六三年分のめんの仕入量の算出方法について、平成元年の一か月平均と、昭和六三年の一か月平均との比率を求め、これを平成元年の仕入量に乗じるという方法を主張するが、右方法は、昭和六三年分についてわずか三か月の資料により平均を算出するものであり、被告の推計方法に比し、より合理的な推計であるということはできない。
以上から、めんの仕入量に関する被告の主張する方法による推計は合理性があり、この点に関する原告の主張はいずれも採用できない。
(二) 販売食数及び販売単価の算出について
(1) 乙七、八号証、証人松田昌の証言及び弁論の全趣旨によれば、被告は、以下のとおり販売食数及び販売単価を推計したことが認められる。
被告は、新垣事務官が、原処分の調査担当時、原告宅で調査した際、沖縄そば一食当たりのグラム数は三〇〇グラムであると聴取した。また、オキコは、原告に対し、特別注文により三キログラム入りの袋を販売しており、一杯分を三〇〇グラムとして一〇杯に分けて使用していることがうかがわれた。そこで、松田事務官が、原告以外の店のうち、原告と同じ位の量のめんを出していると思われる店を何件か調査したところ、大方の店のめんの量が二七〇グラムであることを店員等から聴取し、原告の店における一杯あたりのめんの使用量も、三〇〇グラムで計算すれば原告の不利益にはならないと考え、沖縄そば一杯のめんの量を三〇〇グラムと設定し、前記(一)の方法で求めた沖縄そばの年間の仕入量を三〇〇グラムで除し、年間の販売食数を算出した。
そして、原告の本件各係争年分についての販売単価について、原処分調査資料により、平成元年末から平成二年五月ころのソーキそばの販売単価が五二〇円であることが把握でき(その他の品目については不明)、本件訴訟の調査時におけるソーキそばの販売単価が六〇〇円であったことから、右調査時の主要六品目(ソーキそば六〇〇円、普通そば五〇〇円、中味そば五五〇円、肉そば六〇〇円、牛肉そば六五〇円及び味好そば六〇〇円)の平均単価五八三円から、右六〇〇円と五二〇円の差額八〇円を差し引き、本件各係争年当時の沖縄そばの平均推定販売価格を五〇〇円とした(端数切捨て)。
なお、お子様そば(調査時の値段三五〇円)、大盛そば(同七五〇円)及び焼きそば(同五五〇円)については、一人前のめんの量が判明しなかったので、平均値段の推計に加えなかった。
そして、ざるそば及びうどんについては、オキコが一人前一袋で販売しているため、オキコの原告に対する販売個数をそのまま原告の販売食数とし、ざるそば(小)、(大)、うどんについて、それぞれ調査時に把握した販売単価から、前記ソーキそばの差額八〇円を引いた金額を本件各係争年当時の推定販売単価とした。
以上の推計方法は、被告の入手し得る推計の基礎事実等に照らし、合理性がみとめられるといわなければならない。
(2) 原告は、被告の沖縄そばの推計について、お子様そば、大盛りそば及び焼きそばを販売品目から除外したこと、原告は、実際は、仕入れた沖縄そばを未調理のまま袋詰めで販売していたことから、沖縄そばの販売食数を過大に認定している、本件各係争年当時の沖縄そばの実際の販売単価は被告の主張を下回る、また、ざるそば及びうどんの推計について、それぞれ一食当たりの使用グラム数が、被告の主張するグラム数より多く、販売単価も被告の主張を下回る旨主張し、被告が販売食数及び販売単価を過大に認定している旨主張する。
しかしながら、被告が、めんの使用量の推定が不能なお子様そば、大盛そば及び焼きそばを除外して平均販売単価を算出したことが、直ちに合理性を失わせることになるとは認められず、また、販売単価に関する客観的証拠として、原告の店で使用していたと認められる各注文書(甲五ないし八号証)は、節子の証言によっても、それぞれどの時期に使用されたものであるか特定することはできず、右注文書から、本件各係争年当時のめんの販売単価を認定することはできない。その他、原告主張に係る事実を認めるに足る証拠はない。
(三) 売上金額から売上総利益及び一般経費を推計する場合の合理性
(1) 乙一号証の一、二、二号証の一、二、三号証の一、二、四号証、証人松田昌の証言及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
沖縄国税事務所長は、原告が確定申告書を提出している被告沖縄税務署長及びこれに隣接する北那覇税務署長更に那覇税務署長に対し、青色申告書により所得税又は法人税の確定申告書を提出している者で、かつ、本件各係争年分を通じて次の<1>ないし<7>のすべての条件に該当する者を抽出するよう指示する旨の通達をしたところ、右各税務署長が右抽出基準に従って抽出した同業者の数は、別表三のとおり、昭和六二年分は二件で、昭和六三年分及び平成元年分はいずれも三件であった。
<1> 沖縄そばを専門に提供する食堂を営んでいること
<2> 他の業種目を兼業していないこと
<3> 年間を通じて事業を継続して営んでいること
<4> 事業所が沖縄税務署、北那覇税務署又は那覇税務署管内にあって、一店舗で営業していること
<5> 青色申告書を提出していること
<6> 売上金額が二三〇〇万円以上、九三七〇万円未満であること
なお、右売上金額の範囲は、原告の売上金額が別表二<1>記載のとおりであることから、その上限を、昭和六二年分から平成元年分までの三年間の平均売上金額の約二倍とし、下限を、右平均売上金額の約二分の一としたものである(いわゆる倍半基準)。
<7> 対象年分の所得税又は法人税について、不服申立て又は訴訟が係属中でないこと
そして、右基準に従って抽出された同業者について、その売上総利益の売上金額に対する割合の平均値を売上総利益率として、これを原告の本件各係争年分の売上金額に乗じて売上総利益を算出し、同様に、同業者の一般経費の売上金額に対する割合を一般経費率として、これを原告の本件係争年分の売上金額に乗じて一般経費を算出した。
前記基準は、原告の事業内容等に基づき設定したものであり、これにより選定された同業者は、業種、業態、事業場所及び事業規模において原告と類似性を有し、しかも、青色申告者であるから、その申告内容の正確性についても担保されており、また、同業者の選定は、前記基準に基づいて機械的に匿名で抽出されたものであるから、選定の過程に被告の恣意が介在する余地はない。
(2) 以上の事実に照らせば、被告が選定した同業者の抽出基準は、業種の同一性、事業場所・業態・事業規模の近似性等、同業者の類似性を判別する要件として合理的なものであり、また、同業者の抽出方法も同様に合理的であったことが認められ、被告が、右基準により選定された同業者の平均値である同業者率を用いて原告の本件各係争年分の売上総利益及び一般経費を推計したことには、合理性があるというべきである。
(3) ところで、原告は、右同業者の抽出過程について、原告が推計に用いた一業者の最終所得率が、原処分時における業者の最終所得率と異なっていることから、その数値の信用性に疑問があること、被告が推計に用いた同業者の数は、個別性を平均化するに足りず、同業者と原告の間で、厳格な類似性が必要であり、本件においては右厳格な類似性は認められないと主張する。
しかしながら、前記認定のとおり、本件推計に用いられた同業者は、被告の通達に対する各税務署長の回答として、匿名で機械的に抽出されたものであり、原処分時において使用した同業者と同一業者であるか否かは明らかではなく、また、原処分時に使用した同業者との最終所得率の違いは、推計方法も本件各処分時とは異なることから生じたものであることも十分考えられるのであり、直ちに本件において使用した同業者の資料の正確性を疑わせるものではない。
また、本件において、抽出された同業者数は、昭和六二年分について二件、昭和六三年分及び平成元年分についてそれぞれ三件と少数であるが、同一もしくは隣接地区に他に正確な資料を有する同業者もいない場合においては(本件における同業者の抽出経過からみれば、右事実がうかがわれる。)、資料の正確性が認められる青色申告者たる同業者二件ないし三件を用いて推計することが合理性を欠くとはいえず、原告と同業者との間に原告が主張するような厳格な類似性までは必要ではない。
したがって、この点に関する原告の主張も採用できない。
(四) 特別経費の算定について
(1) 被告は、原告の本件各係争年分に係る特別経費として、給与賃金及び減価償却費について、前者については原告の青色申告決算書の給与賃金欄記載の金額に基づき、後者については原告が提出した減価償却資産の取得価額に関する資料(甲九号証)に基づき、実額より計算をしているので、以下のこの点について検討する。
なお、証拠上、右給与賃金及び減価償却費以外に本件各係争年分に係る特別経費があることはうかがわれない。
<1> 給与賃金について
甲一三ないし一五号証、乙一一ないし一三号証、証人松田昌及び同松川節子の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、原告が、本件各係争年分の確定申告の際に被告に提出した青色申告決算書(甲一三ないし一五号証)の給与賃金欄には、給与賃金の内訳として、
昭和六二年分 従業員四名 合計四六二万円
昭和六三年分 従業員四名 合計四八二万円
平成元年分 従業員三名その他二名分 合計三九九万円
との記載があり、原告が、その従業員に対し、右金額を実際に給料賃金として支払っていたことは、当事者間に争いがない。
原告は、被告が、本件各係争年分の特別経費については、実額を主張しているのであるから、被告において、実額の主張に捕捉もれがないことを立証しない限り、特別経費実額控除方式の推計課税には合理性が認められないのであり、原告が青色申告決算書に記載した金額以外にも人件費が発生しており、被告において、実額の捕捉もれがあることが明らかであると主張する。
本件訴訟においては、特別経費については、被告は実額を主張しているのであるから、原告がこれを上回る実額の主張立証をすることができれば、これは有効な反証となり得る。
そこで検討すると、原告は、青色申告決算書に記載した金額以外にも人件費があったことは明らかであると主張し、証人節子は、原告の店舗では、青色申告決算書に記載した従業員以外に、平均してパートが三人、アルバイトが二、三人おり、パートには平均して月に約七、八万円を、アルバイトには約四、五万円を支払っていた旨証言するが、具体的な金額についての主張はない上、右証言以外にその稼働していた時期、支払金額等を認めるに足りる客観的証拠はなく、また、右のとおり賃金を支払ったとすれば、何故青色申告決算書には記載しなかったのか合理的な説明がつかないことからして、右証言は信用できず、被告の認定した給料賃金を上回る人件費の実額の証明があったとすることはできない。
また、原告は、人件費については、売上の増加に伴って増額するものであるから、収入金額については青色申告決算書記載の金額を上回る金額を推計によって算出しながら、人件費について青色申告決算書記載どおりの金額を採用すれば、それが実額を下回ることは明らかであると主張するが、人件費と収入金額が一般的に対応することが仮に認められるとしても、前記のとおり、原告が申告した収入金額が実際のそれよりも低いとして推計課税が行われた本件事案において、直ちに原告の提出した青色申告決算書に記載された収入金額と人件費が対応していたということはできないのであるから、この点に関する原告の主張も採用できない。
<2> 減価償却費について
ア 甲九号証、乙一七号証の一ないし三、一八号証、一九号証の一ないし一七、二〇号証の一ないし三、二二号証、二三号証の一、二、二四号証、証人松川節子の証言及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(a) 原告は、現在の原告方店舗の存する沖縄市胡屋五丁目一番一号の近隣地において、自己の土地及び建物(以下、併せて「本件譲渡資産」という。)を所有して事業を営んでいたところ、県道二〇号線街路改良工事に伴い、昭和五六年七月三一日及び同年八月三日、原告と沖縄県知事との間において、本件譲渡資産に関する売買契約及び物件移転補償契約が締結され、原告は、総額一億〇二〇〇万三〇〇〇円の対価補償金を取得した(乙一七号証の一ないし三)。
(b) 原告は、昭和五六年一〇月二三日、本件譲渡資産の代替として、現在の原告方店舗の敷地である沖縄市胡屋五丁目二〇四番、畑、三七九平方メートルの土地を購入し(乙二三号証の一)、昭和五七年一月二九日、丸松建設こと棚原憲松との間で、右土地等の上に、右店舗となる建物を建築する工事請負契約を締結した(甲九号証、乙一〇号証、以下、右購入した土地、建物と、別表五に記載された設備等を併せて「本件代替資産」という。)。
(c) 原告は、昭和五六年分の確定申告書を提出する際、右対価補償金について、租税特別措置法
(以下「措置法」という。)三三条(収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例)の適用を受けるため、同条二項の取得期間内に代替資産を取得する見込みであり、その取得価額の見積額は九一九〇万円であるとして譲渡所得を計算し、右申告書に、同条六項に基づく譲渡所得計算明細書(乙一八号証)及び同条二項に基づく措置法施行規則一四条四項に基づく買換え承認申請書(乙九号証)のほか、工事請負契約書(乙一〇号証)並びに土地売買契約書(乙二三号証の一)を添付して被告に提出した。
(d) その後、原告から本件代替資産の取得価額を証する資料として、領収証(乙一九号証の一ないし一七、二〇号証の一ないし三、二二号証、二三号証の二)が提出されたが、右領収書及び土地売買契約書(乙二三号証の一)によれば、本件代替資産の取得価額は、総額で九九五八万円となり(別表五)、前記申告における代替資産の取得価額の見積額を上回った。
(e) そこで、原告は、被告に対し、措置法三三条の五第四項に基づく更正の請求をし、被告は、原告の昭和五六年分所得税の減額更正処分を行った。
イ 右のとおり、原告が昭和五六年分の所得税につき、措置法三三条の課税の特例の適用が受けた結果、右対価補償金の額が前記取得金額を超える場合に当たるとして、譲渡資産のうち右取得価額に対応する部分は、その譲渡がなかったものとみなされ(措置法三三条一項本文)、税務計算上は譲渡資産は置き換えられて、新たに取得した代替資産は従前から所有していたものとみなされることになる。そして、減価償却費の額を計算するに当たっては、代替資産の取得価額は、譲渡資産の取得価額のうち当該代替資産に対応する部分として措置法施行令で定めるところにより計算した金額とされる(措置法三三条の六、同法施行令二二条の六)。
したがって、減価償却費の計算における本件代替資産の取得価額は、実際の取得価額九九五八万円ではなく、措置法の各規定に基づいて算出された四九七万九〇〇〇円であり、その内訳及び計算過程は、別表六のとおりである。
そして、原告は、本件代替資産のうち、減価償却資産である建物の一階倉庫、二階店舗及び店舗前の駐車場を事業の用に供していることから、右減価償却資産は事業用減価償却資産となり、その償却費は事業所得計算上の必要経費となる。
したがって、原告の本件各係争年分の事業所得計算上、必要経費となる減価償却費の額は、前記算出に係る取得価額四九七万九〇〇〇円のうち、右事業用減価償却資産に係る部分に対応する取得価額を基礎とし、減価償却資産の耐用年数等に関する省令に定めるところにより計算した四万三二三五円となる(その計算過程は別表七のとおり)。
(2) 原告は、被告が、特別経費の認定について、推計によらず実額により認定し、特別経費実額控除方式により事業所得金額を算出したことにより、被告の採用した同業者の売上金額に対する事業所得金額の割合(最終所得率)に比較して、原告の本件推計に係る最終所得率が著しく高くなっており、原告の所得を不当に高く算出したものであり、特別経費についても、特別経費実額控除方式に比べより合理性の高い最終所得推計方式に従い、同業者率を用いて推計すべきである旨主張する。
しかしながら、特別経費の中には、減価償却費、地代家賃、利子割引料のように、通常の取引により発生する経費ではなく、必ずしも売上金額に対応しているとはいえないものを含んでいるのであるから、売上原価を除く必要経費を一般経費と特別経費とに二分し、前者を同業者率で推計し、後者を実額で個別に認定することは、十分に合理性があり、特別経費実額控除方式は、特別経費について実額が正確に認定できる限りにおいて、所得を推計する方法として一般に合理性が認められる。
本件においては、前記認定のとおり、原告の特別経費について、実額が認定できる場合に当たり、特別経費実額控除方式により所得を認定したことについて合理性は認められる。また、原告において、特別経費として、給料賃金及び減価償却費が認められるものの、地代家賃や利子割引料は認められないのであるから、同業者と原告との間で所得率に差が生じているとしても、右地代家賃や利子割引料の差により特別経費の額に開きがあることが推認され、右最終所得率の差をもって、本件推計方法が合理性を欠くことになるとまではいえず、この点に関する原告の主張は採用できない。
(五) 原告の主張する推計方法について
原告は、本件訴訟において、平成元年分及び昭和六三年分について、めんの仕入量を推計し、これに基づく推計方法を主張するが、これまでの検討から明らかなように、その推計方法は合理的であるといえず、採用できない。
(六) 手続き的瑕疵の主張(処分理由の差し替え)について
審査裁決の理由附記の趣旨は、あくまで審査手続きを念頭においたもので、その後の段階である取消訴訟における主張の追加、変更についてまでも、理由附記の拘束力を拡大しようとするものではなく、裁決の拘束力は、原処分の取消し又は変更裁決の実効性を保障するための効力であるから、審査庁が審査請求を棄却するに当たりいかなる判断をし、また、いかなる理由を附記しようと、何ら税務署長を拘束するものではない。それゆえ、被告が、更正処分又は審査裁決では考慮されなかった事実を、処分を正当とする理由として訴訟の過程に至って新たに主張することも可能である(最判昭和四二年九月一二日民集八八号三八七頁)。
本件についてこれをみるに、本件各処分は、原告に対する青色申告承認を取り消した上で、更正処分等をしたものであり、その結果、更正通知書には理由の附記はされていないこと、原処分当時は、オキコからのめんの仕入量が、平成元年八月及び九月の二か月分しか判明していなかったため、めんの仕入量に基づく合理的な推計は不可能であり、プロパンガスの使用量や、水道の使用量により推計したこと、本件訴訟提起後、松田事務官らの調査により、本件各係争年分に係るその他の一二か月分のめんの仕入量が判明したことから、本件訴訟において、めんの仕入量による推計方法を主張したことが認められる。
以上からすれば、本件訴訟において、異議申立てに附記された理由及び裁決書に記載された理由中で主張された推計方法と異なる方法を用いて推計することは何ら違法ではなく、また、原処分時及び審査裁決時において採用していた最終所得推計方式に代えて、本件訴訟において特別経費実額控除方式を採用したことが、行政庁の恣意によるもので、違法であるということはできない。
第四結論
よって、原告の請求は理由がないので、本件請求をいずれも棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 木村元昭 裁判官 近藤宏子 裁判官 村越一浩)
別表一
本件課税の経緯
<省略>
別表二
原告の事業所得の金額
<省略>
別表三
同業者の売上総利益率及び一般経費率
<省略>
別表四
<省略>
別表五
代替資産の実際の取得価額の計算
<省略>
別表六
代替資産に引継がれる取得価額の計算
<省略>
別表七
減価償却費の額の計算
<省略>
<省略>
<省略>
別表八
<省略>